2014年10月21日火曜日

Oxford Nanopore、新しいナノポアシーケンー“PromethION”を発表!

 9月25日付のGOクラブで、Oxford Nanopore Technologies Ltd. (Oxford Nanopore) が開発を進めている新しいナノポアシーケンサー“PromethIONシステム”の情報を提供したが、つい最近Oxford Nanoporeは、ホームページ上でPromethIONシステムの情報を公開した。また、Birmingham大学のNick Loman氏とOxford NanoporeのCTOであるClive Brown氏との情報交換(YouTubeで公開中)から、ポータブル・ナノポアシーケンサー“MinION”も実用レベルの性能を確保したこともわかった。今回のGOクラブでは、これらナノポアシーケンサーの最新情報を紹介したい。


MinIONデバイスの性能

 2013年11月5日付のGOクラブで、MinIONデバイスの性能に加えて、シーケンシングに供するライブラリーの調製法を紹介した。YouTubeで開示されている情報によると、ライブラリー調製法については、以前の情報と基本的に同じTransposaseを用いる方法である。その詳細については、YouTubeの情報を参照してほしい。

 Clive Brown氏は、YouTubeにて、“MinION SpotON-T”という名称のオンサイト・ライブラリー調製キットの内容を披露している。本キットを用いてMinIONデバイス上にDNA溶液をロードすることで、その場でトランポゾンを利用したライブラリー調製を行うことができ、そのままシーケンシングを行えるという「優れもの」である。

 なお、MinIONデバイスの性能については、以前紹介した情報とはかなり異なっていることがわかった。まず、フローセルの寿命であるが、4日程度である。現行のリード速度は30 bp/秒であり、リード長はインプットするDNAサンプルの長さに依存し、最大79 kbの配列リードも得られている。途中で読み取りが止まるDNAは実質なく、10 kbのDNAであれば、10 kbの配列が出力される。現行のプロトコールでは、1日置きに新しいDNAを注入してシーケンシングを行うことにより、1つのフローセルあたり数百Mbから1 Gbの配列データが得られる。

シーケンシング精度について

 塩基配列はDNAがナノポアを通過した際に1塩基ごとに電流値が異なることに基づいて決定されている。ただし、ナノポアが1塩基ずつ塩基を解読しているのでなく、ナノポアのくびれ部分に存在する5塩基の配列を出力する。1塩基ずれるごとに隠れマルコフモデルにより、次の1塩基を予測するという方法により1塩基の配列を読み取るという原理である。

 9月25日付けのGOクラブでは、シーケンシング精度は65~80%であると報告したが、Clive Brown氏は、サンプルDNAの相補鎖の配列も同じナノポアで解読できるライブラリーを調製し、同じDNAを両方向に読むことにより(両方向を読むことを2Dリードと呼んでいる)、シーケンシング精度が向上することをYouTube上で紹介した。現時点では、すべてのリードが両方向読めているわけではないが、λファージのDNAをシーケンシングキットR7.0を用いて読んだときに、7,911 bpのデータが得られ、1リードあたりのエラー率は13.7%(塩基挿入3.7%、塩基欠失4.8%、塩基置換5.2%)であった。新しいシーケンシングキットR7.Xを使ったときには、エラー率が9.2%となり、大腸菌ゲノムを×15の冗長度で読んだときの精度は99.999%となることがわかった。この精度は、すでにPacBio RSIIシーケンサーの精度に匹敵していると言える。Clive Brown氏は電流値の感度アップや複数ポアを用いたシーケンシング法も含めて、今後シーケンシング精度を継続的に向上させていくことを語っている。

細菌ゲノム配列データのアセンブリー

 Nick Loman氏は、ロシアのUniv. of St. PetersburgのAlgorithmic Biology LaboratoryのAnton Korobeyrikov氏との共同研究で、IlluminaシーケンサーのリードデータとMinIONデバイスのリードデータのハイブリッド・アセンブリーの研究結果をYouTube上で公開した。その研究結果によると、PacBioシーケンサーのデータとのハイブリッドアセンブリーでも使われているソフトウェアツールSPAdes(SPAdes 3.2)を用いて、E. coli K12のゲノムデータのアセンブルを行ったところ、実質1本のゲノム(4,649,811 bp)になることが明らかになった。

PromethIONシステムについて

 PromethIONシステムの概要については、既に9月25日付のGOクラブでも紹介したが、ごく最近Oxford Nanoporeのホームページ上でも製品の概要が紹介された。ただし、ホームページ上では、その性能データまでは開示されていない。

 PromethIONシステムは、8連チップで8種類のサンプルをロードできるフローセルカセットを装着できるベンチトップ・タイプのナノポアシーケンサーであり、合計12個のカセットを装着できる。約10万個のナノポアを用いてシーケンシングできるという情報から、1つのフローセルは約1000個(おそらく1024個)のナノポアを持つのであろう。シーケンシング性能は、約54 Gb/hrであり、1日に1 Tb以上の配列を出力し、8日間は配列を出力し続けることができるという。

他の次世代シーケンサーとの比較

 9月25日のGOクラブの時点では、MinIONデバイスはシーケンシング精度も悪く、まだ実用レベルには達していないと感じたが、2Dリードとシーケンシングキットのアップデートにより、実用レベルに達したと評価できる。また、Oxford Nanopore自身も、ごく最近MinIONデバイスを利用できる「MinIONアクセス・プログラム(MAP)」を再開することを発表し、事実上の「市販開始」と言ってもよいであろう。上述のように、Illuminaシーケンサーのデータとのハイブリッドアセンブリーにより、細菌ゲノムを1本にアセンブルできることが実証されており、コスト面も含めて、PacBio RSIIシーケンサーと十分に競合できるレベルに達していると言える。なお、出力量に関しては、IlluminaのHiSeq X Tenに匹敵する性能を持っていると言える。