2012年11月26日月曜日

GenapSysの次世代シーケンシングプラットフォーム“GENIUS”とは

 米国国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)の次世代シーケンシング技術開発の研究グラントである“Advanced Sequencing Technology Awards 2012”を受けた「6種類の新技術」の中に、GenapSys Inc. (GenapSys) が開発を進めている次世代シーケンシング技術である"Gene Electronic Nano-Integrated Ultra-Sensitive" (GENIUS) が含まれている。今回のGOクラブでは、GENIUSプラットフォームを利用した小型ポータブル・シーケンシングデバイスを紹介するとともに、他の技術と比較してみたい。


GenapSysの技術開発の経緯

 GenapSysは、Hesaam Esfandyarpour博士が2010年に設立した次世代シーケンシング技術開発ベンチャー企業である。Esfandyarpour氏がStanford大学出身であることから、多くのStanford大学の研究者が科学顧問となっている。GenapSysが最初に開発した技術は、“Theromosequencing”と呼ぶ「温度上昇検出」に基づくシーケンシング技術であり、GOクラブでも以前に紹介した。Theromosequencingは、DNAポリメラーゼがdNTPをDNA鎖の3'末端に結合する際に、dNTPの高エネルギーリン酸結合の分解に伴って熱エネルギーが放出されるが、その熱エネルギーを検出する仕組みに基づいている。その後、Ion Torrentと同じく、pH変化に基づくシーケンシング技術も特許などで公開している。

Advanced Sequencing Technology Awards 2012” を受けた技術は、これまでに開発した技術も利用して、スマートフォン程度の小型デバイス内に、DNA抽出、ライブラリー構築、DNA増幅およびシーケンシングのすべての工程を自動化する技術である。シーケンシング部分は、これまで確立したpH変化検知技術を利用し、必要に応じてTheromosequencing法も組み合わせるらしい。シーケンサーの目標性能は、シーケンシングコストが約50ドル、平均リード長が1000塩基、そしてアセンブリー前の精度が99.7%である。

GENIUS技術の概要

 最新のGENIUS技術については、“Advanced Sequencing Technology Awards 2012”のウェブページの内容を見てもよくわからない上、その技術内容は公開されていない。したがって、GenapSysの特許(PCT/US2011/054769; 2012年4月12日公開)をもとに、最新のGENIUS技術の概要について紹介する。なお、特許の内容に基づいているので、GenapSysが実際に開発を進めている技術と異なる部分があるかもしれない。




















以下、上図を参照しながら、GENIUS技術の概要について説明する。

血液などの生体試料をデバイス内に注入し、チャンバー内で細胞溶解液と混合することにより、細胞を溶かし、DNAを抽出する。さらに、1対の電極により電場をかけてDNAを移動させて多孔質フィルターを通して、DNAを分離する。この高分子DNAとDNA断片化用ビーズを混合させた後、マイクロ流路に送り込み、ナイフの役目を持つビーズと高分子DNAを接触させることにより、DNAを断片化する。ビーズは除去され、得られた断片化DNAは次のPCRによるDNA増幅工程に送られる。

次に、単分子のDNAをトラップするための磁気ビーズと混合し、マイクロアレイ状にビーズを整列させた後、温度の上下によりPCR反応を行う。PCR反応後は、電気泳動装置に移動させて、電位差をかけることにより、ビーズ上の増幅DNAのマイナス荷電に応じてビーズを電気泳動によって分離する。良好なDNA増幅が行われた磁気ビーズのみを選別し、次のシーケンシング工程に移す。

シーケンシングは、磁気ビーズ上のDNAを鋳型としてDNAポリメラーゼによる合成反応を用いるPyrosequencing法によって行われる。ヌクレオチドの取り込みは、pHおよび/または温度の変化によって検出するが、特許明細書には、磁気ビーズ上のDNAの電荷濃度の測定によっても行えると記載されている。

他のシーケンシング法との比較

 GENIUS技術は、上述の説明から、Ion Torrentのシーケンシング法に似ており、サンプル調製段階が同じデバイス内で実行でき、自動化されている分だけ進化した技術といえる。いわゆる「Sample-to-Answer」型のポータブル統合化デバイスである。

 サンプル調製も自動化されているという利点以外に、デバイスが再利用できることを目指している。再利用に関しては、研究用の場合にはDNAのコンタミネーションが気になるが、何回も使えるので、個人・家庭向けに利用できる機器になるという将来イメージも浮かぶ。

 シーケンシングはPyrosequencing法を用いているので、ホモポリマー部分の配列決定精度が気になるところであるが、pH変化に加えて、熱変化なども併用してヌクレオチドの取り込みをモニターできる場合には、精度の向上が期待される。